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東京地方裁判所 昭和51年(ワ)4746号 判決

原告 株式会社 高文

右代表者代表取締役 高橋達三

右訴訟代理人弁護士 河合弘之

右訴訟復代理人弁護士 荘司昊

被告 柳沢米吉

主文

被告は原告に対し、三〇〇万円及びこれに対する昭和五一年一二月二一日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実

一  原告は、主文同旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因を別紙のとおり陳述し、証拠として、甲第一号証ないし第四号証を提出し、証人木村敬道の証言を援用した。

二  被告は本件口頭弁論期日に出頭しないが、その陳述したものとみなされる答弁書には、「被告は、以前訴外昭和開発産業株式会社の取締役をしていたが、全く実務にたずさわったことがなく、昭和五〇年九月二日一身上の都合により辞表を提出して退職し、現在全く関係がない。本件は昭和五〇年九月二日以降に発生した事件であり、被告退職後のことであるから、被告の何ら関知しないところである。」旨の記載がある。

理由

一  《証拠省略》によれば、請求原因第一項ないし第三項の事実を認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

二  被告の責任について

1  被告が訴外会社の取締役であったことは当事者間に争いがない。

被告は、昭和五〇年九月二日訴外会社の取締役を辞任した旨主張するが、《証拠省略》によれば、被告は、昭和五一年三月一七日に辞任するまで訴外会社の代表取締役であったこと、右辞任の登記は同年同月二六日になされたことが認められ右認定を左右するに足りる証拠はない。

してみると、被告は、本件が発生した昭和五〇年九月から同年一二月当時、訴外会社の代表取締役の地位にあったと認められる。被告は、全く実務にたずさわっていない旨主張するが、会社の代表取締役として登記された者が名目上の代表取締役にすぎないことはきわめて例外的な事象であるから、それを主張する者が立証すべきところ、右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

2  代表取締役は、会社に対して善管義務ないし忠実義務を負い、会社の全ての業務を統括し、取締役及び被用者が違法な行為ないし不当な取引行為に出て第三者に損害を被らせることがないように監視、監督すべき義務を負うものである。

3  前記認定事実によれば、訴外会社は、本件取引のなされた昭和五〇年九月ないし一二月当時、既に資金難をきたして経営が行きずまり、窮境に陥っていたものと認められ、他方、訴外高野のした本件取引は、原告と電話交換機のリース契約を締結すると共に、これを契機として、原告からスキー場会員権加入名義のもとに会社経営資金を導入する目的をもってなされたものと推認される。(右リース契約の内容は明らかではないが、通常行なわれている企業設備のリース契約は、実質的に一種の信用供与の機能を営むものとして行なわれており、本件リース契約もそのような性質のものであったことが原告の主張から窺われる。)

そして、会社が経営的に行きずまり、窮境に陥っていることを秘して右のような取引を行なうことは、相手方の判断を誤らせ、不当な損害を被らせるおそれのある不当な取引方法であるというべきところ、前掲各証拠によれば、訴外高野は、原告との本件取引に際し、訴外会社の前記のような経営状態を黙秘したばかりでなく、元海上保安庁長官の被告が訴外会社の代表取締役であることを明記したパンフレット(うち一部は被告の写真とサイン入りのもの)を示し、被告の経歴等を不当に利用して訴外会社の信用性に対する原告の判断を誤らせたことが認められ、被告は、訴外会社の被用者たる訴外高野が右のような不当な取引に及ぶのを漫然放置していたものと認めるほかはない。

4  そうとすれば、被告は、訴外会社の代表取締役としての職務を行なうにつき重大な過失があったものと言わざるを得ず、商法二六六条の三の規定により、原告が被った損害を賠償すべき義務がある。

三  以上の次第で、被告に対し、三〇〇万円及び右損害発生の翌日である昭和五一年一二月二一日から完済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める原告の本訴請求は全部理由があるから、これを認容すべきである。

よって、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、仮執行の宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 魚住庸夫)

〈以下省略〉

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